狡猾な王子様
「じゃあ、私はこれで失礼します」


「私も帰ります。ちょっとゆっくりし過ぎちゃいましたし……」


いつもはどんなに長くても三十分程しか過ごさないのに、今日はここに来てから一時間近く経っている。


配達はもうないけど、まだ畑仕事が残っているかもしれないし、夕食の支度も手伝いたい。


「あ、私が引き止めてしまったから……。ごめんなさい」


「そんなことないですよ。瑠花さんとお話できて嬉しかったし、楽しくてつい長居しちゃっただけですから」


申し訳なさそうな瑠花さんに笑顔を返したあとで、ふと疑問が浮かんだ。


「そういえば、瑠花さんってどうやって来たんですか?」


窓の外に見えている駐車場には英二さんと私の車しかないことが気になって訊けば、彼女は駅からタクシーで来たのだと答えた。


「もしよかったら、駅まで送りましょうか?」


「え?」


自らこんなことを申し出るなんて私らしくないけど、店先でのこととハンカチのお礼を少しでもしたかったから。

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