狡猾な王子様
午前中の畑仕事を済ませ、昼食のあとすぐに三軒の配達先を廻って、お父さんの知り合いの居酒屋に行った。


「こんにちはー!山野農園でーす!」


「おっ、ふうちゃん!今日も元気だねぇ!」


「おじさんもいつもお元気ですね」


「酒に強いのと健康なことだけが、俺の取り柄だからねぇ!」


胸をドンと叩いて豪快に笑うおじさんの声は、相変わらずよく響く。


「なにもそんな自慢げに言う程のことじゃないよ!」


その声は裏まで筒抜けだったらしく、奥から出て来たおばさんが呆れたように言った。


「なんだよ、お前はまた……」


不満げなおじさんを余所に、おばさんはニッコリと笑う。


「ふうちゃん、こんにちは」


「あ、こんにちは」


「いつも悪いわね、うちの人の相手して貰っちゃって。適当にあしらっていいからね」


「いえ。おじさんの話、すごく楽しいですから」


仲睦まじく見えるふたりにフフッと笑うと、おばさんは私の顔をじっと見つめた。

< 129 / 419 >

この作品をシェア

pagetop