狡猾な王子様
「だから、英二さんの前でも緊張してばかりだった。初対面の時なんて挨拶すらちゃんとできなくて、注文を訊くだけなのに声が震えたし、自分から世間話ができるようになるまで三ヶ月くらい掛かったの」


その頃のことを話しながら、苦笑が零れた。


美形という言葉にあんなにも綺麗に当てはまる人を見たのは、テレビやインターネット以外では初めてだった。


緊張のあまり挨拶の時は声が出なくて、注文を訊こうと出した声は震えた。


最初のうちは挨拶と必要最低限の会話が精一杯で、英二さんが話し掛けてくれても『はい』か『いいえ』で答えるくらいしかできなかった。


だから、いつも以上に消極的になる無愛想な私しか知らない彼には、絶対に呆れられていると思っていた。


だけど……。


「でも、英二さんは嫌な顔ひとつしなくて、それどころかいつもニコニコ笑ってくれて……。注文を訊くのもしどろもどろだった私がちゃんと話せるまで、いつも待っててくれたの」


英二さんは、そんな私に優しい笑顔で接してくれたのだ。

< 259 / 419 >

この作品をシェア

pagetop