狡猾な王子様
室内は暖かいはずなのに、緊張のせいなのか背中がヒヤリとした。


速いままの拍動はさらに不安を大きくし、弱い私を追い詰めるかのように音を立てている。


それでも、もうあとには引けなくて、覚悟を決めるしかないのだと、心の中で自分自身に言い聞かせた。


「私……やっぱり、英二さんのことが好きなんです」


改めて告白をしたせいで、こんな時なのに胸の奥が締めつけられてばかみたいにドキドキして、声が震えてしまいそうだったけど……。


今日伝えるつもりだった言葉を、ひとつひとつしっかりと噛み締めるように紡いだ。


苛立ちを携えていた英二さんの瞳が僅かに見開かれ、驚きの表情が向けられる。


ひと呼吸ほど置いてから、彼が様子を窺うような顔つきになった。


「英二さんはいつもすごく優しいけど、いつからかなんとなく壁があることに気づいてました。だから、心が近づくことはないんじゃないかな、ってその時からずっと思ってます」


いつの間にか膨らみすぎた緊張が、不安を覆い尽くしていた。

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