狡猾な王子様
鼓動が速くなり、不安に包まれる。


度胸も勇気もなく、そしてなによりもこのあとのことを考えていないくせに、踏み込んでしまった私がそうなるのは必然だった。


眉間の皺が深くなった英二さんの表情には、苛立ちがくっきりと出ている。


「それを聞いてどうするの?」


そんな彼を前に早くも後悔を抱き始めていると、低く冷たい声音で発せられた疑問が投げかけられた。


それ以上は踏み込むな、と壁を作られたことに気づく。


きっと、今ならまだ引き返せる。


英二さんなら今日のこのやり取りはなかったことにして、次に会う時にはまたいつものように笑ってくれるだろう。


だけど……。


「聞いたところで、私には……なにもできないと思います」


このままなかったことにして繕われた笑顔を見続けるよりも、例え苛立ちをぶつけられたとしても彼の素の表情が見たい。


英二さんの本当の顔を、知りたい。


「でも、知りたいんです」


だから、身勝手な気持ちだと理解しながらも、素直に伝えた。

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