狡猾な王子様
「ちょうど一週間前……英二さんが仮眠されていた日です。木漏れ日亭の前で着物を着た女性と鉢合わせて挨拶をしたら、英二さんのおばあさまだって言われました」


「まさか……。あの人が来るはずないよ」


私の言葉が信じられないらしく、英二さんは相変わらず戸惑いを浮かべている。


たしかに、あの女性が彼の祖母だという証拠はない。


「でも、他人だって言われる方が納得できないと思ったくらい、英二さんにそっくりでした」


それでも似ていたのだと主張すれば、英二さんの顔色が変わった。


「はっ……」と小さな笑いを漏らした彼は、嘲るようにしながら眉を寄せた。


「なにしに来たんだよ、あの人は……。俺のこと、勘当したくせに」


冷たい声音だったけど、自嘲気味な笑顔が心の傷を静かに物語っている。


「おばあさま、木漏れ日亭の雑誌の切り抜きとホームページをプリントアウトした物を持って、ずっとお店を見てたんです」


そう確信した私は、あの日に目にしたことをちゃんと伝えることにした。

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