狡猾な王子様
みるみるうちに心が乱れていくことに気づいた時には、なんだか泣きそうになってしまっていた。


まだなにも言われていないけど、笑顔になれるような話だとも思えない。


そんな私の予想は当たっていたらしく、僅かな沈黙のあとで英二さんが息をそっと吐いた音が聞こえてきた。


『冬実ちゃんと話さなきゃいけないと思って』


先ほどよりも少しだけ低かった声が、彼の言葉の意味を重くする。


そこに孕まれているものが私にとって悲しいものになるのだということを察した瞬間、鼻の奥がツンと痛んで胸が苦しくなり、咄嗟に唇を噛み締めた。


『あれから、ちゃんと話せてないから……。だから、明日の配達のあと、時間を貰えないかな?』


「え?」


『ダメかな?』


目を小さく見開いて声を漏らした私の耳に、遠慮がちな声で紡がれた言葉が届いた。


ダメというわけではないけど、てっきりこのまま話すのかと思っていたから返事に困ってしまう。


それでもなんとか思考を働かせ、数秒の間を置いて口を開いた。

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