狡猾な王子様
「あの、話なら今でも……」


そう言ったのは、もう英二さんの前では泣きたくなかったから。


もし彼が私の告白に改めて返事をくれるつもりなら、それを聞いた私はきっと泣いてしまう。


想いを断ち切る努力をしていても、英二さんの答えがわかっていても、さすがに面と向かって彼に振られた時に涙を堪える自信はない。


強がって笑うほどの強さはまだ持てていないから、気まずくならない方法を選びたかった。


『ちゃんと、直接会って話したいんだ。明日が無理なら、冬実ちゃんの都合のいい日を教えて』


だけど、電話越しの英二さんからはどうしても譲ってくれる気がないのが伝わってきて、彼の真剣な声音に自分が折れるしかないのだと気づいた。


仕方なく、受話口を手で押さえてため息を漏らし、覚悟を決めた。


「わかりました。じゃあ、三十分くらいなら……」


『充分だよ。ありがとう』


安堵混じりの声で落とされた言葉に続けて『おやすみ』と紡がれ、私も同じ台詞を返すと、そのまま通話は終了した──。

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