狡猾な王子様
「正直、冬実ちゃんの言動に苛立ったし、どうしてそこまで踏み込まれなきゃいけないんだとも思った」


素直に紡がれた言葉に、耳も胸も痛くなる。


もっともな言い分だけど、今までの英二さんなら冷たい笑みでそっと突き放すようにはするものの、きっと『苛立った』なんて口にしなかっただろう。


いつになく落ち着いた声音で家族のことを切り出されたから、もしかしたら良い方向に向かったのかもしれないと少しだけ安堵していたけど……。


「すみませんでした……」


はっきりと苛立ちを告げられた私は、視線を伏せながら小さく言うことしかできなかった。


「謝らないで。そのおかげで、俺はちゃんと向き合おうと思えたんだから」


ただ、彼の声には怒りの感情はなくて、むしろ先ほどよりも穏やかさが滲み出ている。


「今までなにも考えたり悩まなかったわけじゃないけど、こんなに真剣に向き合ったのは実家を出てから初めてだった」


「冬実ちゃんのおかげだよ」と笑みを向けられて、なんだか泣きそうになった。

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