狡猾な王子様
ここに来るまでに決意を固めたはずだったのに、いざ話を切り出されてみると心の準備ができていないことを思い知る。


それでも逃げるわけにはいかなくて、膝の上で拳をギュッと握りながら英二さんの瞳を見つめ返した。


直後、柔らかな破顔が零された。


予想外の表情を見せられたことに戸惑いはあったけど、まるで陽だまりのような温もりすら感じられそうなその優しい雰囲気に心の強張りが少しだけ和らぎ、拳に込めていた力が緩む。


彼はまるでそんな私のことを見透かすように微笑むと、息を小さく吐いてからゆっくりと口を開いた。


「この間のことだけど……」


やっぱり、と思った瞬間に体を僅かに強張らせてしまったけど、続けて耳に届いたのは予想とは違う内容だった。


「冬実ちゃんに実家に帰るように勧められてから、祖母や実家のことをずっと考えてたんだ」


「え?」


思わず目を見開いてしまったけど、英二さんの口調は緊張を孕みながらも落ち着いていて、今までの彼とはなにかが違うことに気づいた。

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