狡猾な王子様
ふと、沈黙が訪れる。


すべての音を失くしたような静けさが訪れ、先ほどから落ち着きを忘れている鼓動が英二さんに聞こえてしまうのではないかと思った。


だけど、彼から伝わってくるのはらしくないほどの強い緊張感で、余裕なんてなさそうだった。


それから少しの時を経て、英二さんは意を決したように深呼吸をすると、背筋を伸ばして体ごと私に向き合った。


「こんな俺ですが、この気持ちを受け取ってもらえませんか?」


控えめな言葉は、きっと罪悪感と後悔を抱いている彼の精一杯だったのだろう。


英二さんが私に敬語を遣うのは初対面の頃以来で、内容にもそのことにも戸惑ったけど……。


「待つ覚悟もある。だから、今すぐじゃなくてもいいんだ」


揺るがない姿勢を見せられて、私が思っているよりもずっと、彼が本気だというのが伝わってきた。


英二さんが紡いだ言葉たちに込められているのは、彼なりの全力の誠意と想い。


それは、ぎこちなくて不器用だけど、とても温かくて愛おしいものだった。

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