狡猾な王子様
「どこかでお茶でも飲んでいこうか」


映画館の近くに停めてあった英二さんの車に乗せてもらうと、彼は私をチラリと見てからそんな提案をしてくれた。


「それとも、送って行った方がいいかな?」


英二さんは、きっと私に選択権を与えてくれただけ。


だけど、その質問によって素直な気持ちを告げてもいいのか戸惑ってしまい、彼への答えに迷った。


時刻は、二十一時を回ったところ。


秋ちゃんが仕事から帰宅する前に家を出てきたけど、そろそろやきもきしている頃かもしれないな、なんて頭の片隅で考えた。


もちろん、そんなことは関係なく、英二さんともっと一緒にいたい。


水曜日の今日は、土日もまともに休めない彼の貴重な休み。


と言っても、英二さんは定休日を設けても結局仕込みや新メニューの開発で忙しそうで、丸一日を過ごせたことはまだ一度もない。


第一水曜日は夕食を食べに行き、第二水曜日は朝から遠方に出向いていた彼が帰宅した深夜に電話をしただけだった。


電話をくれただけでも嬉しかったけど、先週は少しだけ寂しかったのも事実。


だから、夕食を共にして映画鑑賞をした今日は今までで一番長い時間を過ごせていて、それが本当に嬉しい。

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