狡猾な王子様
「でも、殴られる覚悟くらいはしてるから、安心してね」


静かに語られた、決意。


程なくしていつもの笑みが零されたけど、英二さんが真剣に言ってくれたことくらいはわかっていた。


「英二さんを殴ったら、私が許しませんよ」


だけど、どう返せばいいのかはわからなくて、口をついた本音が車内に落ちた。


「殴られるくらい、どうってことないよ。お父さんにもお兄さんたちにもね」


本心とは言え、今の話の流れを考えれば見当違いなことを言ってしまったのに、彼がごく普通に返してくれたからホッとして微笑が漏れた。


「ダメです。綺麗な顔に傷がつくんですよ」


「俺は男だからそんなこと気にしないよ。それに、俺にもし妹がいたとして、その子をすごく可愛がってたら、俺みたいな男を連れてきたら心配だし殴りたくなるよ」


自嘲混じりの笑顔を見せられて、英二さんが本気で彼自身を卑下しているような気がしたけど、敢えて明るく笑って見せる。


「私がその子のお兄ちゃんだったら嬉しいですよ。幸せそうな妹が見れて」


だって、“妹の私”は、ちゃんと幸せだから。


そんな気持ちを伝えたくて微笑むと、前を見つめる横顔がとても嬉しそうなものに変わった──。

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