狡猾な王子様
お風呂から上がると、交代で英二さんがバスルームに行った。


彼の居住スペースになっている二階に入れてもらったのはまだ数回で、ふたりきりの時には緊張して堪らないのはいつものことだけど、ひとりになってもそれは変わらなくてちっとも落ち着かなかった。


淹れてくれていたレモンティーは、ミントとクラッシュアイスで爽やかな冷たさを持ち、飲んでみると緊張と暑さで乾いていた喉を潤してくれた。


朝から降っていた雨はどうやら止んだみたいで、聞こえてくるのはシャワーの音と、開いた窓から入ってくる風に揺れる草木の音。


耳を澄ますように目を閉じれば、少しだけ心が落ち着くような気がした。


英二さんは、ちゃんと考えてくれてるんだよね。いつだって、私のこと……。


ふと考えるのは、そんなこと。


一般的なことはわからないけど、いい年齢の大人が付き合って三ヶ月で“まだ”なのは、きっと英二さんが初心者の私の気持ちを汲んでくれているからだ。


それはとてもありがたくて、いつだって与えられる優しさに幸せを感じているけど、もし私から踏み出すことがあるのなら、今日なんじゃないかと思う。


ゆっくりと深呼吸をして目を開けた時、たぶん覚悟は決まっていた。


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