狡猾な王子様
「私……英二さんのことが……」


指先がひんやりとするのは、さっきまで握っていた冷たいグラスのせいなのか、それとも緊張しているせいなのか。


すぐに後者だと気付いて、同時に心臓がバクバクと騒いでいることを自覚した。


なんてバカなことを口にしてしまったのだろう。


英二さんみたいに素敵な男性(ひと)が、私みたいになんの取り柄もない女から好かれたって迷惑でしかないに決まっているのに……。


可愛くも綺麗でもない私からこんな風に言われたら、鬱陶しさすら感じるかもしれないのに……。


やっと自分が口にした言葉の重大さに気付いて、今になってどうしてこんなことを告(い)ってしまったのかと後悔に包まれる。


どうしよう……。


言葉に出来ない程の不安で、体が震えてしまいそうになって。


自然と伏せていた瞳を泳がせ、更に顔を隠すように俯いて。


どうやってこの場から立ち去ろうかと、逃げ出せる方法を探す為に思考を使おうと努める。


だけど……。

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