狡猾な王子様
「今日も綺麗なトマトだね」


英二さんはごく普通に笑いながら、トマトをひとつひとつ手に取って確認している。


そんな彼が着ているシャツのボタンがふたつ目まで開いていて、思わず逃げるように視線を落とした。


いつもはこんな着方をしていない英二さんが、さっきまで“なに”をしていたのか。


『彼女は、“彼女”じゃないよ』


あの女性と彼の香りがそれを物語っていたし、前に吐かれた言葉の意味もわかっていたけど……。


気崩れた服に、さらに追い討ちを掛けられてしまった。


「冬実ちゃん」


いつの間にかカウンターにはアイスティーが置かれていて、こんな時なのにこの間割ってしまったグラスのことを思い出す。


笑顔でそれを勧めてくれた英二さんに、ぎこちない笑みを返した。


「あの……この間はすみませんでした……。グラス、弁償します」


英二さんを真っ直ぐ見ることができないままの私に、彼は一瞬だけ気まずそうにしたあとで苦笑した。

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