狡猾な王子様
香水なのか、はたまた柔軟剤やシャンプーの香りなのか、私にはわからない。


ただ、あの綺麗な女性からは、間違いなく英二さんがいつも纏っている香りがして……。


「あ、冬実ちゃん」


程なくして目の前に現れた彼からは、いつもと違う香りがほのかに漂っていた。


「冬実ちゃん?」


「あ……」


顔を覗き込まれて、必死に笑顔を繕う。


私の気持ちを知っているはずの英二さんは、どうしていつもと同じように笑っているのだろう。


私に恋愛経験がないことを知っていて、私がなにも言えないことをわかっているからなのだろうか。


よくわからなくて、だけどやっぱりなにも言えなくて……。


「こんにちは……」


震えそうになる声で、ようやく小さな挨拶を紡いだ。


「こんにちは」


いつものようにさりげなく箱を持ってくれた英二さんのお陰で、塞がっていた右手が自由になったのに……。


心がズシンと重い痛みを感じて、足は鉛を付けられたように前に進まなかった。

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