コール マイ ネーム
 泣きたくなんかないのに、並べられる過去が未奈を追い立てるのだ。

 携帯を忘れ、連絡が取れなかったあの日。未奈がどれだけ落ち込んだのか、雅也は知らないのだ。もしかして、大切な用事だったのかもしれないと、慌てて電話を折り返したときの気持ちも伝わっていなかったのだ。

 雅也が料理の上手い女性がタイプなのを知っていて、毎日料理の練習をしていることも、そして、なかなか上達しない自分への自己嫌悪に陥っていたことも、全て、全て――

「……っ」

 未奈は唇をかみ締める。

 当たり前なのだけれど、伝えなかった自分が、上達出来ない自分が悪いのだけれど、それでも、別れの原因をすべて自分の所為にされるほどに、自分は出来損ないな彼女だったのだろうかと、未奈の手が、悔しさで悲しさで震えた。

 目頭が、熱い。

 意地で涙を止めておくのにも、そろそろ限界に近い。

 せめて涙は見せまいと、未奈がうつむいた――そのとき。
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