【完・短編】~彼女は春を告げる~
「好きだよ、美琴。すげー好き………」
ぽつりと呟いた言葉は誰かに届くわけでもなく、部屋の中でむなしく消えた。
想いはいつだって溢れてるのに、それを伝えるのは……どうしてこんなにも難しいのだろうか?
「好きだ」たった三文字じゃないか。
それなのに、たった三文字なのに。
どうして簡単じゃないんだろうか?
何で、こんなにも難しくて複雑なんだろう。
いくら考えたって答えなんて見つかるはずもなく。
残るのは、好きだという分かりきった想いだけ。
『将光、ご飯できたわよ』
ドア越しに聞こえたはずの母さんの声が、やけに遠く聞こえた気がした。