すっぴん★

(臭い。とにかく、臭い)


何かが腐ったような酸っぱい臭いが、部屋中を占領している。


俊介は巣潜りで潜水するように、出来るだけ息を止めて部屋の中を潜
水する事にした。


山の裾に、獣道のような道がある。
道のようであり、道でない。
時折、ガラクタの山が足元に崩れて来る。


慣れているのか、かおるは全く平気。そのガラクタを足で器用に振り
払っている。


かおるは俊介の手を逃げられないように、凄い力で摑んでいる。


「もう逃げませんから、少し手の力を緩めてもらえませんか」

俊介がかおるに懇願した。


「本当?」
「本当です」


「本当に本当?」
「本当に本当です」


「絶対に本当やで」
「絶対に本当です」


かおるの握る力が、嘘のように弱まった。


俊介は観念をしていた。
ガラクタ屋敷に足を踏み入れ、腐ったような臭いを嗅ぐにつれて。






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