満月の人魚
(え?それって……。)

瑠璃の胸の中でトクンと音がする。

「それと、名前で呼ばせるのも誰でもじゃない。」

さっき呼んでくれたよな、と続ける黒沢は、嬉しそうに微笑んでいる。

その笑顔が眩しすぎて思わず目を逸らす。

「あれは……非常事態で…。」

「非常事態じゃなくても呼んで。いつでも。」

気付けば触れ合える距離まで近づいてきていて、瑠璃は赤い顔を隠す為に下を向いた。

「……丈瑠…。」

よしっと囁く声が瑠璃のすぐ近くで聞こえる。

顔が燃えるように熱い。

瑠璃は今まで経験した事のない気持ちを持て余していた。



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