ロリポップ
 引き返せる。

 そんな言葉が頭の中で繰り返される。

 引き返すも何も、まだこの甘く苦い疼きに名前は無い。

 会わない日のほうが断然多いのに、どうしてこんな日に限って会ってしまうのか・・・。

 そして、聞かなくていい言葉を聴いてしまう。

 いつだってタイミングが悪くて、最悪に絶妙なタイミングで聞かなくてもいいことを聞く羽目になる。

 
 ああ、ほんとに嫌だ―――――。

 視界が揺らいで廊下が歪んで見えた。

 
 なんか、文哉の失恋から涙腺、壊れちゃったのかも・・・。

 こんな事ぐらいで涙出そうとか、ありえないし・・・・。

 
 はあ~と溜息にも似た大きな息を吐く。

 
 なんかダメだなぁ、私。


 こんなにグラグラ気持ちが揺らいで。

 おまけに涙腺も崩壊気味だし。


 自嘲気味に笑って再び廊下を歩き出す。


 いつだって思い通りにならない。

 
 そんな事に今更気づいた自分が可笑しかった。




 噂は自然と消えたようで、数日、恩田君の同期と思われる女子社員に問われる事はあったけれど、一週間が終わろうかという頃には消えていた。

 所詮は人事。

 興味なんてすぐに新しい噂話にうつっていくだけ。

 年末の急がしさに残業が続いたり、課の忘年会や何やらであっという間に一年の終わりが近づいていた。

 会社も明日からお正月休みになる。
 私は実家に帰る以外予定も無い。

 友華や瑛太も実家に帰るらしい。
 実家に帰って、そのあとは2人で旅行すると言っていた。
 林田君は・・・年越しで合コンらしい。
 ・・・一年の終わりも始まりも合コンって、って思うけど、林田君なら納得。

 本命の彼女が出来る時なんてくるのかなぁ?って時々本気で思う。

 こう言うタイプの人は、本気になった女の子には以外と一途だったりする、と私は思っていて、そんな一途な恋愛をしている林田君を見てみたい、と思う。
 まあ、今は完全に無理だけど。
 年末年始を合コンでって考えてるあたりが軽すぎて、私ならドン引くわ。


 そんなこんなで慌しく仕事納めの今日。

 残業はさすがに無く、定時に会社を出てそのまま実家に向かう電車に乗る。

 実家は今、住んでいるところから一時間近く電車に揺られたところにある。

 帰るのはお盆以来。

 近いからいつでも帰れるとか思っていたけれど、結局は年末とお盆くらいしか帰ることは無い。

 もっと帰って来なさい、ってまた言われるな、と母の顔を思い浮かべながら電車を降りた。








 
 
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