ロリポップ
 恩田君のマンションは家から2駅手前だったはずだ。

 それなのにどうして、私のマンションの近所のスーパーで会ったりするの?

 見たくないものを見てしまうのは、何か呪われてるんじゃない?って思う。

 文哉といい恩田君といい、どうして今見なくちゃいけないの?って時に見てしまうの?

 握り締めたスーパーの袋は、何しに行ったの?って言うくらい軽かった。



  
 もう一度スーパーに行く勇気は無かった。

 コンビニでとり合えずカップ麺とビールを買ってマンションに向かう。
 
 なんだか単身赴任のお父さんみたいなコンビニ袋の中身は、可愛げも何も無い。
 手に持っているスーパーの袋の中身は、オリーブオイルと洗剤とラップのみ。
  
 食べられるものは何も買っていなかったのに、逃げ出すようにスーパーを出て来てしまった事を後悔したけど、かといって引き返す気にはなれなかった。


 今なら引き返せる

 少し前の私は間違えていた。

 もう、引き返す事は出来ないところまで染み渡っていたいつかの甘い感情の存在に、やっぱり痛みを感じる事になってしか気づかない自分の鈍感さに、本気で泣きたくなった。


 いつからとかそんなの分かるわけない。

 一緒にいたのだって数えるくらいだし、電話してきたのだって二回だし。

 醜態さらした事はあっても、甘い雰囲気になったことなんて微塵も無い。

 サラサラの栗色の髪の毛は好きだけど、おっとりとした話し方も好きだけど、ふんわり笑うのも好きだけど、好きだけど・・・・・。

 ・・・・・結局、好きなんじゃない

 と引き返す為の言い訳を考えていた自分に呆れる。
 
 本当に、乙女チック症候群。

 恋してる自分に酔うとか。

 はあ~・・・と白い息が冷たい空気に溶けていく。
 涙がすぐそこまで来ているのが分かるけど、無理やり顔を上に上げてどんより曇った空を見上げた。

 今にも雨が降りそうな黒い雲を見ながら、まるで私じゃない、と呟く。

 ポロッとしずくが落ちそうな私と空の間には湿った空気が漂っていた。



 
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