ロリポップ
 いつの間にかウトウトと眠ってしまっていた。
 
 着信を知らせる音楽で目が覚める。


 寝ぼけた指先でそれをとる。


「・・・もしもし・・・」


【あ、夜分にすみません、恩田ですけど】


 ・・・・・。
 夢見てる?

 寝てしまう前に散々、恩田君の事考えてたから、しょうがないなぁって夢に出て来た?

 おっとりした声が聞こえる電話をまじまじと見つめる。
 
 【もしもし?逢沢さん?】


 電話からはやっぱり恩田君の声がしてる・・・・。


「恩田君・・・夢にまで出てこなくていいから・・・」


 そのまま電話を握り締めて私は再び眠りに落ちる。
 
 もしもし?って聞こえていたけれど、スピーカーを押さえたままの電話から聞こえるその声は、凄く遠くから聞こえる声のように聞こえた。
 だから、夢だと思ったのかも知れない。
 

【侑君?】

 と小さく女の子の声が聞こえた。

 出てくるなら恩田君だけで良かったのに。

 彼女まで連れてきちゃうなんて、本当、恩田君らしいけど。

 でも、夢の中くらいサービスしてよね・・・・。


 どこまでも、夢の中だと私は次の日まで信じて疑わなかった。





 遮光カーテンの隙間から差す光がまぶしくて目が覚める。

 昨日はなんだか疲れていた。

 一気に部屋の片付けをしたせいか、色々と考えて頭の中がパンク寸前だったせいか。

 早い時間に眠ってしまった事だけは何となく憶えている。

 夢の中にまで恩田君が出てきて、乙女チック症候群の末期症状だなと乾いた笑いが漏れる。
 手に握り締めていたはずのスマホはベッドの横に転がっていた。


 ちかちかと新着メールを知らせるランプが点滅していて、薄暗い部屋の中で存在を主張している。


 拾い上げたスマホのロックを解除して、受信箱を開いてその指が止まる。

 恩田君からのメールが一件・・・。


 昨日の逃亡を思い出して、沈む気持ちをなだめつつメールを開く。


 《昨日電話したんですけど、お休み中のようだったので・・・》

 
 そこまで読んで、自分が夢だと思っていた事が、実は本当だったと驚愕の事実を知る。
 
 い、いいいいいいいいいいやぁ~~~~~~~!!!!!!

 穴は自分で用意するんで、入ってもいいですか?

 もう赤面を通り越して顔面蒼白状態の私は、メールの続きを読むのが怖くてスマホをベッドの上に放り投げた。

 今はとてもじゃないけど、読めない!

 気持ちを落ち着けなくちゃ読めない!!!


 恩田君にさらしてしまった醜態が増えてしまった事に落ち込むのは、冷静になったこの少し後・・・・・。



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