ロリポップ
 スルリと出た私の本心。

 あ・・・でも、その前に好きって言うはずだったのに。

 言わなくちゃ、と思った時には唇は言葉を発する事は出来なかった。

 チュッと軽く触れたかと思った唇は、一瞬にして呼吸も奪われるほどのキスへと変わって行く。
 抱きしめていたはずの背中は、いつしか向かい合わせになってぴったりとくっつく感触に、体が熱を帯び始める。
 塞がっているはずのその手で、後頭部を抑えられて逃げられなくなる。
 背中にまわす私の指先が、恩田君のシャツをきつく掴りしめた。


 「・・・っん」


 と唇の端から漏れる私の声は、自分のものとは思えないほど甘い。

 深くなるキスは、歯列をなぞられる度に、絡みつくその舌先に触れるたびに新しい官能を呼び起していく。

 お互いの唇を貪りあうように激しく求め合う唇からは、あふれた唾液が流れ落ちる。

 交わされるキスの数のたびに、響く淫らな音が余計に体の熱を増す。


 わずかに離された唇から、唾液が流れ落ちた。

 それを指で拭う恩田君の瞳は熱っぽくて、ゆらゆらと潤んでいた。


「・・・はぁ・・・バカ・・・」


 呼吸を整える私の一言に、クスッと笑う恩田君は余裕の笑みを見せる。


「お願いしたのは逢沢さんですよ?」


 うっ・・・・・。
 確かにお願いしたけど。
 思った以上にっていうか、こんなにキスがうまいとは想像してなかったのよ・・・。
 仕掛けておいてこんなことを言うのもなんだけど。
 キスだけで気絶しそうなくらい気持ちよかった・・・なんて、絶対に言えないけど。


「本気にしても・・・いいの?」


 好きだと言ってくれた恩田君の気持ちを信じてないわけじゃない。
 でも、確認しておきたかった。
 本気で好きになってもいいのかを。

 今更、好きじゃないって言われても引き返す事は不可能だけど。


「今更ですよ、その質問」


 笑う恩田君は、私の額に自分の額を押し当てて抱きしめる。


「もう逃げられませんよ?覚悟してくださいね?」


 そう言って、軽くキスをした。


「・・・うん。・・・恩田君」


「何ですか?お願いですか?」


 ふんわりと微笑むふわふわの雰囲気はそのままなのに、和めなくなってしまった恩田君。
 
 ちゃんと言うから。

 ちゃんと言うから聞いて。


「・・・好きだよ」



 一瞬、見開いた目が穏やかに微笑む。


「やっと聞けた・・・・・」



 そう囁く小さな独り言のような呟き。


 大好きだよ、恩田君・・・・・。




 
< 62 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop