先天性マイノリティ
『コップは夢を見ると思う?』
コウの言葉を思い返しながらホットコーヒーを掻き混ぜる。
持ち上げたスプーンの先に映る、ぐにゃりと歪んだ自分の顔。
幾重もの波紋に吸い込まれていくミルクを見てあの日を馳せる。
コップが夢を見るとしたら、どんな夢なのか。
やはり俺にはわからない。
…お前はなにを喩え、どういう答えを求めていた?
死人に口無し、というフレーズは大嫌いだ。
「遺書、見つかってないんだよね?おばさんが言ってた」
「…ああ」
「謎の死とかに憧れてたもんね、コウのやつ。格好いいから早く死んだとか言いそう」
結局注文したメニューの半分以上の量を残したままファミレスを後にする。
こうしている今も流れていく時間、流れていく人間。
滝のように停止が不可能な人生の中で覚えていられることなんてごく僅かで、三秒前に擦れ違った人の顔すらノッペラボウのようにさっぱりと忘れている。
不要な情報は脳内で即デリートされ、捨てられる。
時には忘れたくない情報まで誤って消されてしまうこともある。
俺は、それを恐れている。
…コウに関する記憶が薄れ、時間の濁流に呑まれてしまうことを。