先天性マイノリティ
ついこの間までコウと二人で乗っていた電車。
今日は家に泊まるか、それとも帰るか、なんて話を当たり前にしていた。
今日はこのまま亡霊のように自宅へ戻るだけだ。
コウのマンションへ行っても彼はいない。
電話をしてもメールをしても、二度と着信は返って来ない。
『爺さんになっても続ける?
』
どうしてあのとき、続けるに決まっていると答えなかったのだろう。
何故、当たり前だと返さなかったのか。
…今なら言えるのに。
──今直ぐ、言いたいのに。
後悔の渦が竜巻のように激しい音を立て心臓へと向かう。
キィン、という耳鳴りが葬儀の日のフラッシュバックを引き起こす。
蒼白い顔、生を失った躰。
頭が割れるように痛い。
なにも考えるな、と脳が指令を出す。
眼を閉じ思考を放棄する。
剥き出しのフローリングの上に寝そべったまま、電気も点けずに数時間。
眼を開けても閉じても消えない、拾った骨、死に顔、葬儀場の黒煙。
コウ、と名前を呼んでもかえらない返事。
暗い天井を仰ぎ見ていれば眼球が乾く。
不思議なもので、膨大な量の哀しみを突き抜けると身体機能が音を上げ停止してしまうのだろう。
泣きたくても、泣けない。
部屋の隅に脱いだままだった喪服が視界に入る。
今直ぐクリーニングに出したいような、生涯このまま持ち続けていたいような複雑な気持ちになる。
…もう二度と袖を通すことはないだろう。
畳む気にもハンガーにかける気にもならない、コウの死の匂いが染み憑いたスーツ。
馨る絶望。
遮断されたプラグの先端は逃避と接触をして優しい思い出を呼び起こす。