先天性マイノリティ
自動販売機のボタンのように無機質に笑う。
自分が歩いているのか、止まっているのかさえわからない。
バイト先と自宅の往復の日々。
頻繁だったメイとのメールも次第に途絶えがちになる。
…理由は、俺が返信を放棄したから。
深夜からのバイト明け、電源を切ったままの携帯をベッドに放って仰向けになる。
まるで俺は死体だ。
なにもする気が起きない。
メイの泣き顔と笑顔が夢の中のような儚さでちらついて、切なくなる。
着信があってもかけ直す気にはなれなかった。
全てに疲れ果ててしまった。
心臓を打ちつける暴力的な雨が止むことはない。
──コウ、と呼ぶ。
返事はない。
これほどまでに救いがないと、喉奥から掠れた笑いが込み上げて来る。
俺も一度、コウと一緒に死んだのだと思う。
葬儀の日、今までの俺は焼かれて灰になった。
だから、今の俺はただの脱け殻だ。
この地球上で唯一の不変だと思っていた空までもが情緒不安定に見える。
雨、晴れ、曇り、雷。
グラデーションを奏でるように予測出来ない天気のように、俺の杞憂も不協和音を紡ぎはじめる。
埋まらないコウの存在の空洞が膨れていって、どうしようもない。
ピアスホールを拡張するときのように、強制的に打ち込まれた太い楔。
ぐずぐずに膿む穴から溢れ出すグロテスク。
コウの愛読書だった太宰治の「人間失格」の冒頭部分が脳裏を過る。