冷たい王子様。
「行ってきまーす。」
バタンとドアを閉めて前を向くと、日差しの強さに目が眩んだ。
体は丈夫な方だけど、貧血を起こしやすい私には強すぎる刺激だ。

中学の頃は日傘を差していたけど、やっぱりなんだか先輩の目が怖くて高校に入ってからは一度も使っていない。

歩きながらジェルタイプの日焼け止めを肌に塗る。敏感肌の私は、日焼けをするとすぐ火傷のように真っ赤になって熱を帯びる。しかもSPF32のじゃないと刺激が強いのか肌荒れしてしまう。

それにしても暑い。校門まででも日傘を差していこうかな、とスクバの中に手を入れてみるが見当たらない。まだ家に戻っても間に合うが母がどんな顔して出てくるか、と思うと自然と足が前に出た。

ミーンミーンとどこかで蝉が鳴いている。なんだか東京には不釣合いな気もした。

学校に着き、校門をくぐるとすぐに親友の紗綾《さあや》が飛びついてきた。
「ゆーき!おはよー。」
「おはよ。紗綾、ちょっと日焼けした?」
健康的な小麦色の肌をした紗綾に指摘すると、ソレ言わないでーと泣くマネをする。
子どもの頃から日差しに弱いから日陰にいたり日焼け止めを塗ってたりするので、私の肌は病気かってツッコミたくなるほど白い。
だから紗綾の健康的な小麦色をした肌がちょっと羨ましかったりする。

昇降口の方へ進むと紗綾があ!と大きな声を出す。
「びっくりしたー。どうしたの?」
少し離れたところで立ち止まっていた紗綾がタッと駆けてくる。
そういえばさー、と人差し指を立てて興奮気味に話しかけてくる。

なんだなんだ?ジョリーズの人気グループ『ハリケーン』のライブでもやるのか?
私は紗綾の次の言葉を待った。

「今日ってさ、席替えあるよね!」
「……あぁ、そういえばそうだね。それがどうかした?」
だってさー、と胸の前で手を組むと紗綾はくねくねと動き出す。
「リョータと隣の席になれちゃったらどうする!?」

と完全に恋する乙女状態。
ちなみにリョータとは小崎遼太のことで、紗綾の片思いの相手。浅黒く日焼けしていて、髪の毛も明るい茶色に染めている。
話しやすいけど女癖が悪いという噂がある、まぁこの桜嬰《おうえい》高校きってのチャラ男だ。

「あーもうはいはい、行くよー。」
見かねて昇降口の方に向き直ると―
ドンッ。

誰かにぶつかった。やばい、先輩かなぁ…。
「あの、すいませんホントに…!」
謝ろうとその人に近づくと、足元でなにやらグシャ、と音がした。
―なんだ?
足をどけてみると、レンズが粉々になったメガネ、と思わしきものが。

「…私が踏んだ?」と気付けば呟いていたようで。
その言葉に相手は盛大な溜め息を付いて見せた。

「………それ以外に何があるんですか。」
低い声でそういわれると何も言い返せない。
彼はレンズが割れたメガネを拾うと、あとできっちり請求しますから、と言い残し生徒が賑わう昇降口へと消えていった。

「やだー優貴災難!」
いつのまにかそばにいた紗綾が耳打ちする。
「アイツ、同じクラスの樫田だよー!あのガリ勉の。あいつとだけは隣になりたくないわー。」
まだ言ってたのかそれ。
それより、とりあえず先輩じゃなくて良かった~。
けど弁償しなくちゃダメだよね…。

紗綾は気にすんなっていってくれたけど、やっぱりもやもやしたまま教室へと向かった。
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