*華月譚*月ノ章 姫君と盗賊の恋物語
「あら、痛かった?

ごめんなさいね、蘇芳丸。


………ふふふ、楽しいわねぇ」






「…………」







楽しいのは六の君だけだろうが、もちろん、そんなことを気にする質ではない。




けろりとした顔で鼻歌を再び歌い出した。






「………よぅし。

背中は終わったわよ。


今度は前ね。

さ、こっちを向いて、蘇芳丸」






「…………」







青年はいかにも嫌そうに顔を背けている。






「ほら、蘇芳丸」





「…………」





「んもう。しょうがない子ねぇ」






六の君はぶつぶつ言いながら、自分が青年の前に回った。





なおも視線を逸らしている青年の目の前にどっかりと座り込み、きつく絞った布で胸のあたりを拭きはじめる。



矢傷の周りは、微かに触れる程度にしておいた。



仕上げに殺菌力の強い薬草をすり潰した軟膏を傷口に塗りこみ、新しい包帯を巻き直して、六の君はほっと息をついた。







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