Hair cuts
そこから、私たちは長い間そのベンチに座ってお喋りをしていた。と、言っても、ほとんど浩人が一人で喋っていて、私と愛華と遊里は浩人の言った事に相槌を打っていただけだったのだけれど、でも、浩人は話し上手だから、ちっとも退屈しなかった。初めは緊張していた私と愛華も、しばらくすると、浩人の言ったジョークに声をたてて笑っていた。

「やべぇ、喉、渇いた。俺、なんか買ってくるわ」

会話が途切れたところで、浩人は立ち上がり、私たちの分もまとめて買ってくるから何か飲みたいものはないかと訊ねた。

「私、コーラがいい。ダイエットコーラじゃないやつ」

「俺はコーヒーかな」

「OK。愛華は?」

「あたしは…。えぇっと、何にしよう」

 愛華は目をくるくるさせた。実は愛華はものすごい優柔不断で、物事を自分で決めるのが苦手だった。お昼のパン一つ買うのにも時間がかかるほどだ。

「じゃあ、一緒に行くべ!お前たち、待ってて」

「え?あ、あたし?」

「そうだよ。早く来いよ」

「え、で、でも」

「ああ、もういいから!」

ぐずぐずする愛華の手を乱暴に引くと、浩人はずんずんと歩き出した。愛華が、助けを求めるように何度も何度も振り返ったけれど、やがて人ごみにまみれて見えなくなった。
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