Hair cuts
「行っちゃった…」

 取り残された私は、思わずひとりごちた。沈黙。何か喋ってくれればいいのに、浩人がいなくなった途端、遊里は無口になってしまった。

「ああ、のど渇いたね。浩人って、ほんっとお喋り」

会話の続かなくなった私は仕方なくそう言った。

「何か買って来ようか?」

「え、でも今愛華たちが」

「帰ってこないと思うよ」

 遊里が断言した。

「それ、どう言う意味?」

「つまり…」

遊里は言いかけた言葉を濁し、それから、いい?といようにズボンのポケットからタバコを取り出し咥えた。

タバコ吸うんだ。

園内にはパトロール中の警察官の姿もあったから、私は補導されないかとそわそわしたが、だめだと言う権利もないような気がして頷いた。

私の許可を得ると、遊里はライターでタバコに火をつけた。遊里の顔を間近で見て、私はちょっと地味だなという印象を受けた。背が高く、髪の毛も赤く染めているから目立つけれど、顔のつくりは浩人と違って派手な方ではなかった。

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