魅惑の果実
桐生さんに言われた通り、私はオレンジジュースを頼んだ。


柑橘類はアルコール分解を手伝ってくれる……って聞いたことがある。



「あ! 洋服、クリーニングに出して返すね」

「必要ない。 そのまま持っていればいいし、捨ててもいい。 姉も気にする様な人じゃない」

「でも……本当にいいの?」



桐生さんは視線を向けるだけで、それ以上は何も言わなかった。


こういう時はもう何も言わないのが一番。


やっと学習した。



「ちゃんと食事をしているのか?」

「うん、ちゃんと食べてるよ」

「また痩せたな」



そうかな?


体重計に最近乗ってないし、自分の姿は毎日見てるからか、よく分からない。



「じゃあご飯に連れてって! 私をまん丸にしてよ」

「そうだな」



え……キッパリ断られるかと思った。


まさかこんな曖昧な返事をされるとは思ってなかったから、ビックリした。


でも、キッパリ断られたほうが良かったかも。


こんな言い方されたら変に期待して待っちゃうよ……。





< 105 / 423 >

この作品をシェア

pagetop