魅惑の果実
玄関の直ぐ外で何度も深呼吸。


普段は気にも留めない風の音や草木が揺れる音が、耳に入ってくる。


よし!


耳元で響く機械音。


遠くの空を眺めながら、緊張してその音を聞いていた。



「何だ」



で、出た!!


話すつもりでかけたのに、いざ繋がるとどう切り出せばいいか分からなかった。



「用がないなら切るぞ」

「ま、待って!! ご飯……いつ、連れてってくれるの?」

「いつがいい?」



いつがいい!?


まさかそう返されるとは……。



「いつでもいい……」

「夜は店だろ」

「基本毎日行ってるけど、休むからいいよ。 私より桐生さんの方が忙しいんだから、合わせる」

「そうか、それなら明後日はどうだ」

「大丈夫!!」



電話越しに聞こえる桐生さんのいつもの静かな笑い声。


カッと顔が熱くなる。



「お前は本当に可愛……」

「い、言わないで!! 恥ずかしいから!!」

「お前は飽きないな。 詳細はまた明日にでも連絡する」

「わかった。 待ってるね……」



電話を切り、その場に座り込んだ。


まだ胸の奥がキュンキュンいってる。


頬っぺたも熱……。


だらしない顔が元に戻ったら、部屋に戻ろう。





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