魅惑の果実
無理です。


っというか、私が振りほどくよりも先に突き飛ばされそうで怖いよ。



「桐生さんがウザイって言っても絶対離さない」

「っ、そうだろうな」



喉で笑い、口元を緩める桐生さん。


そっと、唇を重ねた。


この唇も温もりも、この笑顔も、全部私のもの。



「桐生さんはスポーツとかしてなかったの?」

「特にはな。 頼まれて気が向けばやっていたぐらいだ」

「運動神経いいんだ?」

「どれもそつなくこなせる程度にはな」



この顔で運動ができたなら、学生時代は凄くもてたんだろうな。


今ももててるし、もてなかった時期なんてなさそう。



「女には不自由しなかったんだろうね」



つい嫌味っぽく言ってしまった。


私が大人になるには時間がかかりそうだ。



「今はお前だけだ」



その一言でもの凄く嬉しくなってしまう私は本当に単純。



「知ってるっ」



頭から布団を被り、ギュッと桐生さんにくっついた。


微かに揺れる体。


声は聞こえなくてもすぐに分かる。


笑われてるんだって事。


恥ずかしさを誤魔化すように狸寝入りをした。


でも気付けばそれは本当の眠りに変わっていった。





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