魅惑の果実
鍵を使って部屋に入ると、部屋の中はシーンと静まり返っていた。


桐生さん、まだ帰ってきてないんだ。


少しホッとした。


リビングに入って座り慣れたソファーに座った。


ここから見える景色も今日で最後。


それなのに涙で滲んでよく見えない。


最近は泣いてばかり。


こんなに弱くなかった筈なのに、いつから泣き虫になったんだろう。


いろんな人と関わるようなったからかな?


立ち上がって意味もなくリビングの中をフラフラ歩き回った。


結局桐生さんに手料理ご馳走できなかったな。


いつも外食か出前で、女の子らしい事なんて一つもできなかった。


それなのに桐生さんは何も言わなかった。


本当は家庭的な人が好きだったかもしれない。


思い返せばそういう話した事ないな。


桐生さんは自分の事を自分からは話さない。


いつも私が自分の話を一方的にしてた。


それでも嫌な顔一つせずに聞いてくれた。


泣いてる時もずっと抱きしめてくれていた。


いつだって愛をくれた。





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