魅惑の果実
父は眼鏡を外すと目頭を指で押さえた。


重苦しい雰囲気。


早くここから出ないと胎児に悪影響を及ぼしそう。



「それで? 話というのは? 手短にしろ」



これが娘にする態度?


まるで上司と部下。



「子供が出来たの」

「何だと? 本気で言っているのか?」

「わざわざこんな冗談言いに来るほど暇じゃない」



_ドンッッッ!!!!


父は顔を真っ赤にして机に拳を叩きつけた。



「今すぐおろせ!!!」

「大学には進みません」

「おろせと言っているんだッッ!!!!」



この人がこんなに怒ってるところを初めて見た。


いつも澄ました顔してるからこんな顔できないと思ってた。



「無理矢理にでも中絶させたいならそれでもいい。 けど、その時は私は週刊誌にそのネタを売るから」

「ふざけるのもいい加減にしろ!!」

「ふざけてなんていません。 私は子供を産みたい。 何があっても」



椅子から立ち上がった父は、机越しに私の胸ぐらを掴み上げた。





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