魅惑の果実
お店に戻ると、キャッシャーのところで桐生さんと鉢合わせた。


いつも隣にピタッとくっついている咲さんは、当たり前ながらいない。


だけど何故だか私の代わりについた筈の女の子も居ない。


桐生さんの隣にいるのは店長だった。



「もう帰るの?」



気まずかった筈なのに、勝手に口が動いていた。



「莉乃!!」



桐生さんに話しかけると、店長の焦った声がすかさず飛んできた。


敬語を遣わなかった事に対して文句を言いたいんだろう。



「桐生さん申し訳ありません!! よく言って聞かせますので!!」

「莉乃には敬語を遣う必要はないと言ってある」



驚いた顔の店長と目が合い、ちょっと気まずい。


そんな顔で見なくてもいいじゃん。



「莉乃、下まで付き合え」

「……うん」



店長が深々と頭を下げる中、私は桐生さんと二人でお店を出た。


エレベーターを待っている時、私たちの間に会話は無かった。


桐生さんに掴まれた腕に、また熱が戻ってくる様だった。


感覚も……。


急に恥ずかしさが込み上げてきて、隣にいる桐生さんを見る事が出来なかった。






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