魅惑の果実
沈黙のまま、一階に辿り着いた。


意識してるのは私だけかもしれない。


きっとそう。


桐生さんは何とも思ってない。


お遊び気分のキャバ嬢が一人でギャーギャー怒って、いじけてるとしか思ってないかもしれない。



「莉乃」

「は、はい」

「何を畏まっているんだ」



そう言って桐生さんは優しく微笑んだ。


胸に切なさが広がっていく。


あんなに嫌な態度を取ったのに、どうしてそんな顔を向けてくれるの?


桐生さんは私みたいな子供が理解できないくらい大人なんだ。



「さっきはごめんなさい……」

「気にするな。 お前の人生だ、好きな様にすればいい」



言葉は優しいのに、突き放されたような気がした。


あんな態度を取っておきながら傷ついている私は、本当に自分勝手。



「好きにすればいいが、今日の俺の言葉、忘れるな。 二度は言わない」



いつものきりっとした涼しげな顔をしたまま、桐生さんは車に乗り込むと帰ってしまった。





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