君が好き。2~大好きな彼と結婚する方法~
「あっ...えっと。お疲れ様です」


つい狼狽えながらも副社長を見ると、なぜかいつも以上ににこにこしていた。


「悪いね、仕事中に。いやね、どうしても櫻田さんが秘書課の皆さんに差し入れをしたいって言うからさ」


...えっ!?


思わず副社長をガン見してしまった。


「ほら、櫻田さんって一度辞めたくせして、ちゃっかり出戻りだろ?そのくせ俺の秘書だからね。みんなに申し訳ないって思ってるんだ」


いつもは比較的穏やかで静かな秘書課内が、ざわざわと騒めき出す。


えぇー!?
ちょっ、ちょっと待って下さい副社長!!私、そんなこと副社長に一言も言ってませんよね!?


「それに櫻田さんって橘さんしか友達がいないから。寂しいらしくて。だから少しでもみんなと仲良くなりたいからって俺に嘘ついて東京バナナを買いに行く始末さ」


ちょっとちょっとー!!
さっきから言いたい放題じゃない!

ずっと黙っていたけれど、さすがにここまで言われたら黙っていられない!
副社長に文句を言ってやろう!そう思っていた時、秘書課内から聞こえてきたのは沢山の笑い声。


「えっ...?」


「アハハ。みんなも笑っちゃうだろ?嘘ついて抜け出した訳を聞いたら俺としても黙っていられなくて。つい秘書課まで足を運んじゃったんだ」


そう言うと副社長はさっきとは一変、真剣な面持ちを見せる。


「櫻田さんは東野君の秘書も務めた優秀な秘書だ。今、俺も助かっている。だけどブランクがある分分からないこともあるだろうから、みんなにフォローしてもらえると俺も助かるんだ。...よろしく頼むよ」


副社長...。


「ほら!櫻田さん、せっかく買ってきた東京バナナ早くみんなに配らないと!」


「えっ、あっ、はい!」


急に言われたものだから慌てて袋を落としてしまった。


あちゃー。...恥ずかしい。みんなが見ている前で。

慌てて拾おうとしたけど、それは誰かによって阻止されてしまった。


「...はい、櫻田さん」


そう言って拾ってくれたのは後輩だった。


「あっ、ありがとう...」


あまり話したことがない後輩に、ちょっと緊張してしまう。


「櫻田さん、東京バナナください。私好きなんです」


「私も!」


「私も下さい」


次々とみんなが集まってきてくれて、私は慌てて封を開けた。


「って言うか櫻田さん、本当に副社長に嘘ついてわざわざ買ってきたんですかぁ?」


「..えっ!?」
< 19 / 368 >

この作品をシェア

pagetop