君が好き。2~大好きな彼と結婚する方法~
それからはただ気持ちが膨らむ一方だった。

「どうしようもなかったよ、誰も知らないんだから。あんなに幸せだったのに、まるで一気に地獄の谷に突き落とされた気分だった。…人ってさ、忘れちまうんだよ、人のぬくもりを。あんなに鮮明に覚えていたんだ。奈津美の匂いや仕草、身体も全て。…なのにどんどん忘れていっちまったんだ。思い出せないくらいにな」

ほぼ毎日感じていたものなのに、日にちが経つにつれ、どんどん忘れていってしまった。

「奈津美がいなくなって、どうしようもなくなって。…さらにどんどん彼女のぬくもりも忘れていく。本当、どうしたらいいのか分からなかった」

「……それで女嫌いになっちゃったんですね」

「…あぁ。嫌だったんだよ。忘れてしまっても、別の女のぬくもりに置き換えられてしまうのが。思い出せなくてもそれでも嫌だった。そうしてたらいつのまにか触れるのも嫌になってしまうほどになっちまったってわけだ。…情けないだろ?」

自分自身のことなのに笑えてくる。
でもあの時は本当にどうしようもなかったんだ。

「だけど、菜々子と出逢えた。菜々子と出逢えたから俺は過去と向き合えたし、菜々子がそんな俺を待っていてくれたから今があるんだと思う。…そんな菜々子をなにがあっても幸せにしたい」

「っ!ならなんであんなこと言ってしまったんですか!?…菜々子はなんの見返りを求めるわけじゃなく、三年以上もずっと待ってたんですよ?…そんな菜々子をなんで信じてあげられなかったんですか?」

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