君が好き。2~大好きな彼と結婚する方法~
俺の気持ちが分からない。そう言いたそうに俺を見る橘。

「…菜々子が出て行った日、言われたんだ。奈津美と私を重ねて見ているって。…そうだと思う。あの時のように幸せで、結婚を控えていて。…なのに突然副社長が俺から菜々子を奪うって言い出した。それで怖くなったんだ。また奈津美と同じように菜々子も突然俺の前からいなくなってしまうんじゃないかって。もう二度とあんな思いなんてしたくないし、なにより奈津美以上に大切な存在だったから余計に…」

「東野さん…」

そんな男の近くにいてほしくなかった。また俺が気付かないうちに菜々子の気持ちが変わってしまって、本気で奪われてしまうんじゃないかって思ってしまったから…。

「俺さ、自分の中ではちゃんと奈津美とのことは過去にできていると思っていたんだ。…でもここ数日色々考える時間があって、本当はまだちゃんと過去にできていないんじゃないかと思う。
向こうでは奈津美とは仕事上の良きパートナーだった。昔のような友人としての付き合いもできていたしな。…でも俺、一度も奈津美の前で菜々子の話をしたことがないんだよ。どれほど好きで、どれだけ大切な存在なのか話したことがなかった。それってまだちゃんと前に進めていなかった証拠なんじゃないかと思う。……だから仕事が落ち着いたら、奈津美に連絡をとってみようと思っている」

「え…大貫さんにですか?」

驚いた顔をし、オウム返しで聞いてくる橘。

「こんなの自己満足かもしれないけど、奈津美に俺の気持ちを全部話せないと、前に進めない気がするんだ。今ちゃんと伝えないと、また同じ繰り返しになってしまう。…みっともない嫉妬で菜々子を苦しめてしまう気がするんだ」

もしかしたら何も変わらないかもしれない。また昔を思い出して、菜々子に嫌な思いをさせてそまうかもしれない。
でも過去と向き合うよう促してくれたのは菜々子だった。
きっと菜々子は、過去と今は違うって言いたいんじゃないかと思うから。

「…本当、めんどくさいほど女々しい人ですね」

大きな溜息を一つ漏らすと。近くの机に寄りかかる橘。

「……いいじゃないですか、自己満足でも」
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