君が好き。2~大好きな彼と結婚する方法~
「...でもさ、櫻田さん。みんな俺のこと見すぎじゃない?芸能人じゃないのにさ」


そんなの、当たり前じゃないですか。どこの会社の社員でも同じことよ。自分の勤めている会社の副社長様が社食なんかにいたら見るに決まっている。


「副社長というお立場上、仕方ないことだと思いますよ。さっさと食べて立ち去りましょう」


「うわぁ。ドライだね、櫻田さん。ここは上の立場としてみんなと楽しい昼食を食べたいところなんだけど」


「いや、それは限りなくゼロに近く無理なので諦めて早く食べるべきだと思います」


そんなの楽しいのは副社長だけで、一社員の皆さんには拷問でしかないはず。


「うーん...。そうかな?みんながみんな櫻田さんみたいならいいんだけどな」


「えっ?」


副社長の言葉に、思わず箸が止まる。

そして目の前にいる副社長を見つめてしまった。

そんな私を真っ正面に座っている副社長はいつものように、にこにこ顔で見つめてくる。


「みんなも櫻田さんみたいにズバズバ言ってきて欲しいんだよねー。だって会社は俺や父親だけの力じゃ成り立たないでしょ?」


「それは...そう、ですね」


「でしょ?逆に新しい意見や話をみんなから聞きたいなぁって思って社食に来てみたんだけどさ。やっぱり櫻田さんの言う通り無理な話なのかもしれないね」


そのまま表情を変えずにまたしょうが焼き定食を食べ進める副社長。


自分の立場をちゃんと分かっていて、それでも社員と交流して社の今後に生かしたいってことなのかしら。


そう思うと副社長としてみれば寂しいわよね。


「...いつもの副社長で誰かに声を掛けてみたらいかがですか?」


「えっ?」


今度は逆に副社長の箸を持つ手が止まる。


「きっかけが必要なんじゃないですか?きっと誰も近くにいるだけでは話し掛けてきてはくれませんよ?」


なんでこんなところにいるの?って思われながら見られているだけよ。





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