オモイデバナシ
変に母さんに勘繰られる前に、居心地の悪くなった家を出掛ける。

「ごめんねこうちゃん、言わない方がよかった?」

千秋が俺の顔を覗き込む。

「いや、いいけどさ」

俺は頬をかいた。

「ちょっと、恥ずかしいじゃんか…」

その…千秋と二人きり、なんてのはさ…。

俺がそう言うと。

「……」

千秋も赤くなって俯いた。

何とも微妙な雰囲気…。

「でも…」

並んで歩きながら、千秋は小さく呟いた。

「私は…嬉しいよ?こうちゃんと二人でいられるの…」

「……」

うわあ…。

そのはにかんだ表情の千秋に、俺は見惚れた。

やっぱり、千秋は可愛い。

こんな可愛い子と一緒に、しかも二人きりで、海水浴に行けるんだ。

ちょっと、暑さにやられて夢でも見てるだけなんじゃないかって思う。

…いや、夢でもいいや。

こんなチャンスは滅多にない。

今のうちに、しっかりこの夢みたいな時間に浸っておこう…。

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