オモイデバナシ
海の家を出て、午後からは何となくのんびりしていた。

午前中のはしゃぎっぷりからは考えられないほど、千秋もおとなしくなっている。

持ってきた浮き輪を膨らませ、それに座って、波の合間をチャプチャプとたゆたっている。

そんな千秋に。

「どした?疲れたか?」

俺は泳いで近づき、彼女の浮き輪につかまった。

「わ、こうちゃん」

驚いたような千秋の顔。

「泳いできたの?ここ結構深いよ?」

「ん、まぁ、このくらいなら」

元水泳部を舐めるなよ、と笑う。

「…やっぱすごいねー、こうちゃんは」

千秋はクスッと微笑んだ。

…そのままお互い言葉もなく、波に揺られる。

砂浜の方で聞こえる子供の声が、やけに遠く聞こえた。

「静かだねー…他に誰もいないみたい…」

千秋が呟く。

「ん…」

俺も小さく返事するだけ。

…何だか、会話なんてせず、このままでいたい気分だった。

何なら、ずーっとこのままでいてもいいかも。

そんな事を、考えたりもした。

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