もしも私が―。
 空虚な闇の中に私はいる。
 なにをするわけでもなく、ぼおっとしていると、突然目の前にスクリーンが現れた。
 驚きながらも、そのスクリーンを覗き込む。

(何だろう?映画かな?)

 そんな事を軽く考えていたら、浮かんで来た映像は……思い出したくも無い、あの光景だった。
 あのお兄さんが化け物に変わった瞬間の映像。

「やだ!見たくない!」
 
 目と耳を塞いでそう叫んだ。

「圭子」

 私を呼ぶ声がした。

「お姉ちゃん!」

 そこに立っていたのは姉だった。

「よかった、助けて!こんなの見たくないよ!」

 私は姉の腕を掴んで叫んだ。すると、姉の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。

「人殺し!」

 信じられない姉の言葉に息を呑んだ。

「どうゆう意味?」

 少し、怒りの混じった戸惑いの言葉を姉にむけた。

「あんたはあの人が危険だと分っていながら見殺しにしたのよ!」

「だって、だって!相手はヤクザだよ!?やばそうな人達だっていっぱいいたし!」

 そう言った瞬間、友達、先生、親、知り合いが、みんな出て来て

「人殺し、人殺し」

 と繰り返してみんなで私を責め立てた。

「やめてえぇ―!」

 大声を出して、私は飛び起きた。

「夢?」 

 何て、何てイヤな、夢……。

 私は、ベットからゆっくりと下りると、階段を下りながら、母と姉を呼んだ。

「お母さーん!お姉ちゃーん!」

 返事が無い……。一瞬不安が過ぎる。台所に行くと、テーブルの上に紙が置いてあった。手にとって見ると

【買い物に行って来るわね 母より】
【友達の所に行って来るから  智子】

「何だ、本当にいなくなっちゃったのかと思った。」

 ホッとため息をついた。でも、一時間、二時間経っても、母も姉も帰ってこなかった。
 そして、いつしか深い眠りについてしまった。
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