代償
「………ゆぅ………と………さん?」
「あ、嬉しー、名前も覚えててくれた」
忘れるわけない。
柴崎 勇人(しばさき ゆうと)。
2つ上の先輩。
中学のとき、知り合った。
すごく、仲よくしてもらって。
………でも、高校生になって、離れた。
それが、何で今。
「久し振りだね、文香。ちょっと痩せた?」
私の隣、キャーラがいないほうに座る。

………待て。
隣のキャーラから、凄まじい殺気が。
………何で?
「文ちゃん、ちょっと」
右側に座るキャーラに、右腕を掴まれる。
「女の子の扱い、知らないの?」
勇人さんが言う。
キャーラを嘲るように。
「………黙れ」
「ぁ………!」
強く引かれる。
「おいっ、キャーラ!」
マスターが声を上げる。
「ごめんねぇ。マスター」

声が低い。
………低すぎて、怖い。
「なぁに?君、オレのこと、知ってるのか」
「あんたにゃ、関係ないね」
僕はこういう者だよ。

サラッと、取り出した、
「………警察!?」
警察手帳。
「そうだよ、僕は警察。君みたいな曲者、潰すのがお仕事」
………は!?
何で………!?
勇人さんが………悪者!?
………そんな。

勇人さんは優しくて、いい人なんだよ?
曲者って………。
………悪者じゃない!
「文ちゃん、来て」

店の奥に連れていかれる。
一瞬だけ鏡に映ったキャーラの顔。

………信じられないほど、堅い、険しい表情だった。
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