掌編小説集
685.原状回復の死活問題‐コード・ブルー‐
私には姉がいる
血の繋がらない姉の家は所謂危険にカテゴリーされる家業を営んでいて
姉の祖父と数人の弟子達と一緒に住んでいる
私の母が早くに亡くなり男で一つで私を育ててきた父は
家業の弟子とその敵対する人達が起こした諍いを止めようとして巻き込まれて
私の眼の前で亡くなってしまった
身寄りの無くなってしまった私を姉の祖父は引き取り育ててくれた
だから私は姉をお嬢ではなくお姉ちゃんと呼んで
門前の小僧習わぬ経を読むかの如く怒らせると一番怖いとカテゴライズされるまでになった
姉は一人娘だったけれども夢があって姉の祖父を含めた家業全員が応援してくれていて勿論私も応援していて
だから姉は家業を継がないことは皆知っているから
私は出来るならば私が継ぎたいと思っている
こんなことでは恩返しにはならないだろうけれども
骨を埋めたいと思わせてくれた家族以上の家族だから
怪我を頻繁にしてくる弟子達の為に医者になりたいけれども
進学するお金よりも二足のわらじは到底無理だから
私が決められない継ぐ継がないは別にして進路を家業の手伝いに決めた
だけど捨てたはずのパンフレットを見られてしまって
お金は出すと言うけれど家業のことは考えなくていいと言うけれど
本音で医者になるより家業を継ぎたいと言っても隆盛な遠慮だと思われてしまう
「実の姉妹ではないのだから」
姉が滑らかに言った言葉に気が立っていたその場は静まり返る
きっと血が繋がっていないのだから家業のことは気にしないでという良い意味なのだろう
けれどその切り口は今の私にとって悪い意味にしか聞こえず額面通りに受け取ってしまう
「そうですねお嬢」
久しぶりにというか初対面以来口にした敬語とお嬢という敬称
ごもっともであって併呑する好悪なんてものはないけれど
姉ではない家族でもない世継ぎにもなれない私の真価は値崩れたただの居候
次の日口を噤む気まずい朝食を終えて学校も終えて足取り重く公園のベンチに座って
ぼんやりしていたら気付いた時には暗くなってしまっていた
帰ろうと思って立ち上がってふと思う
「どこに帰る?」
どこに帰ればいいのだろうか
郷里なんてものはとっくにない
勝手知ったるシュプールはかき消えて
思考はドミノ倒しで座礁する
私の帰りたい場所はどこにもなくなった
帰る場所も辿り着く先もないお手上げ状態の当ての無い旅
痛切に活路を見出して向かった先は両親が眠る遺構の野辺
人っ子一人いない空間で傍らに座ってもたれ掛かり一緒に眠りにつこう
血の繋がらない姉の家は所謂危険にカテゴリーされる家業を営んでいて
姉の祖父と数人の弟子達と一緒に住んでいる
私の母が早くに亡くなり男で一つで私を育ててきた父は
家業の弟子とその敵対する人達が起こした諍いを止めようとして巻き込まれて
私の眼の前で亡くなってしまった
身寄りの無くなってしまった私を姉の祖父は引き取り育ててくれた
だから私は姉をお嬢ではなくお姉ちゃんと呼んで
門前の小僧習わぬ経を読むかの如く怒らせると一番怖いとカテゴライズされるまでになった
姉は一人娘だったけれども夢があって姉の祖父を含めた家業全員が応援してくれていて勿論私も応援していて
だから姉は家業を継がないことは皆知っているから
私は出来るならば私が継ぎたいと思っている
こんなことでは恩返しにはならないだろうけれども
骨を埋めたいと思わせてくれた家族以上の家族だから
怪我を頻繁にしてくる弟子達の為に医者になりたいけれども
進学するお金よりも二足のわらじは到底無理だから
私が決められない継ぐ継がないは別にして進路を家業の手伝いに決めた
だけど捨てたはずのパンフレットを見られてしまって
お金は出すと言うけれど家業のことは考えなくていいと言うけれど
本音で医者になるより家業を継ぎたいと言っても隆盛な遠慮だと思われてしまう
「実の姉妹ではないのだから」
姉が滑らかに言った言葉に気が立っていたその場は静まり返る
きっと血が繋がっていないのだから家業のことは気にしないでという良い意味なのだろう
けれどその切り口は今の私にとって悪い意味にしか聞こえず額面通りに受け取ってしまう
「そうですねお嬢」
久しぶりにというか初対面以来口にした敬語とお嬢という敬称
ごもっともであって併呑する好悪なんてものはないけれど
姉ではない家族でもない世継ぎにもなれない私の真価は値崩れたただの居候
次の日口を噤む気まずい朝食を終えて学校も終えて足取り重く公園のベンチに座って
ぼんやりしていたら気付いた時には暗くなってしまっていた
帰ろうと思って立ち上がってふと思う
「どこに帰る?」
どこに帰ればいいのだろうか
郷里なんてものはとっくにない
勝手知ったるシュプールはかき消えて
思考はドミノ倒しで座礁する
私の帰りたい場所はどこにもなくなった
帰る場所も辿り着く先もないお手上げ状態の当ての無い旅
痛切に活路を見出して向かった先は両親が眠る遺構の野辺
人っ子一人いない空間で傍らに座ってもたれ掛かり一緒に眠りにつこう