掌編小説集

689.氷瀑の焚き火

転けそうになった女性を助けようとして
奇しくも抱き締める形になってしまった

そんな姿をバッチリ君に見られてしまった
女性とともに慌てて事情を説明したけれど

君は表情の一切を変えることはなく
そうですかの一言だけで済まされた

モラルのデューディリジェンスは社会の窓みたく迂闊なハメ手のフィニッシュで
情夫‐イロ‐を彷彿とさせるダブルブッキングな状況‐デモンストレーション‐

怒っているかどうかなんて確かめる勇気もなく
怒っているだろうからと謝るタイミングもなく

恐る恐る怒っているよねごめんと謝れば
なんのことですか?と一糸乱れぬ表情で

あの時の件だとあの時以上にドギマギしながら言えば
助けただけですよね?あの時そう言いましたよね?と

文学的なレポートのような教育が行き届いた返答
レジリエンスなどではない別段変わらない表情だ

それはそうだけれど・・・それをそのまま信じてくれたの?
なんで貴方の言った言葉を疑う必要性があるの?と相見える

革新的なトリビアやオリエントなジンクスまでを
何事も疑うことを仕事にしているのにも関わらず

モダンに嫉妬をするわけでもコンサバに浮気を疑うわけでもこれしきと陳情するわけでもない
鶴の一声のように俺の言った言葉を君が疑わずに信じてくれたことに一目散に歓呼したくなる
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