掌編小説集
694.ほろ苦くも芳醇な浸透圧
俺は華道の宗家の長男でたとえ構想を練ることもなくやっつけにしたとしても副産物並に数々の賞を取ってしまって天才的な才能だと釣り広告同様の健筆に持て囃されてはいるものの順にいては逆を忘れず逆にいては己を捨てずと出来栄えのフィット感の差別化が日進月歩したところで俺自身は華道というものがそもそも好きにはなれなかった
冒頭から改定も改修も無い歴史にしがみついて凝り固まったプライドの塊である宗家とイケメンでありモテてメディア受けする弁舌とプロデュース力があるものの華道の才能そのものが無い次男と華道の才能はそこそこあるものの努力はしないし伸び代も興味も無い気触れて金食い虫の三男では腹の中が見れないならば外側に見えるものだけを信じていればいいなんて思えない
周囲の期待に応える為に溢れ出す気持ちを押し殺して稽古や修行に励んで応えようとし続けて政略結婚じみたお見合い結婚をして数年は良かったものの金を取るなんてがめついと文句を言うのにタダでしてもらう厚かましさには都合良く気付かず口だけは出すお嬢様な妻の奔放ぶりと日に日に増してかけられる跡継ぎの繁殖‐プレッシャー‐が段々と重荷になって有症を言い出せないのにハッキリと拒む勇気もなくて妻とはそういう気持ちにならないのに仕事を言い訳にして避ける回数が増えていく
そんな折に肩を回すコミューターの息抜きと称して型破りに対抗意識を燃やすお稽古場の超低周波な監視から抜け出して着流しのままの散歩の途中で自動販売機に寄り掛かって帰りたくないと座り込んでいたところへ声を掛けられたのが私服ではあるけれども警察官だというハイグレードな厚情を持った一品一様である彼女との出会い
それから時々話をするようになったけれども決して浮気などではなくあくまでも散歩のついでに東屋に立ち寄るだけで意味のない他愛ない話でも俺にとっては意味はあるから彼女と過ごす時間に意味があるから味方になってくれていると思えたからこそ普段素直に感情を態度に表したり出来なくてこぼせない愚痴を言えたのかもしれなくて俺が求めているのは安息の地で自分を理解してくれる特別な存在なのだろうか
周りの誰かにとっては立ち止まって見えていても貴方の中では高い壁や長い坂を登っているのだから引っ張ることは出来ていないかもしれないけれど慕われていることは分かりますから自分を卑下しないでくださいと疲れて果てている時に干渉されすぎると口煩いと感じてしまうからこそ聞き役に回ってそっと寄り添ってくれる彼女には何もかも取っ払った本音を話しやすい
会えば時間がくれば別れてしまうから嫌だけれど会いたいから彼女を待っている日が増えていき会いたいなら言えばいいと優しい彼女は言ってくれそうだけれど会いに来たら既婚者である俺に気を遣いすぐに帰ってしまうから会いたくないという矛盾を抱えながらも癒やしを投与して衛生管理が整い勇気も貰ったからきっと明日まで頑張れる
そうパンケーキシンドロームを騙して誤魔化せるのももう限界で度牒からバードウォッチングされた生育不良な活動弁士の事例には誰も気付かなくて質疑応答すらテンパってままならないから妻に離婚を吐き捨て前室に置き去りにして華道からも妻からも逃げたくてサブウーファーで増強されたあの空間の何もかもから離れたくて降り出した強めの雨の中で速度を早めながら彼女の家に初めて向かう
未明近くの時間帯に加えて全身ずぶ濡れな俺に驚く彼女を抱き締めて抱きたいと言えば彼女は何も言わずに寒くないのに震える俺の身体を抱き締め返してくれて玉の緒の蒸練‐ハーバー‐に浸り明け方近くに目が覚めれば彼女は朝食の用意をしていて謝って済む問題ではないよなと言ったら出来るなら謝って済まして欲しいと困っているようで仕方がなさそうに笑ってくれた
帰らなければならない頃になっても雨はまだ降っていたから差していってとビニール傘を彼女に貸してもらってタイムスリップしたようなアーシーな雰囲気がおしくらまんじゅうで噴霧されて触れ回っている中を一人歩けば自然とかしめになってくれた彼女と離れ難い気持ちが強くなる
食べ比べされる家‐アイランド‐へ帰らなければならないけれどもそこに一番近い歩道橋から白む街並みを眺め一息ついて茶摘みの機を待つのは夢のまた夢と思うのをもう止めて枯渇した棋風を踏ざんしても目が黒いうちにと今一度覚悟の決意を固くして節理をボロカスにして破談の絶妙手にて新たな一歩を踏み出そう
『侘び寂びで風流な華燭の典を彼女と』
しかし彼は帰りたくなかった家に帰ることはなく踏み出そうとしたその一歩すら地面につくこともなく人気のない歩道橋の階段から転げ落ちてそのまま亡くなり争った形跡も無く雨で滑ってしまった不運な事故死だと警察が結論付けたけれども雨で流されてしまったのか碌な証拠が無かったせいとも言える
それから数年後にとある事件が起きて捜査一課に配属されていた彼女は彼を失った宗家一族と相見することになりその事件を解決することが彼の事故死の真相を解き明かすことに繋がるとは彼女はもちろん関係者の誰も思いはしなかった
事件を調べていく内に彼女と宗家一族の次男に接点があることが判明してしまい捜査員達から説明を求められてしまう
彼女と次男との出会いはエビングハウスの忘却曲線よりも早く彼の為の盛大なお葬式に気付かれないようにと遠くからではあるもののじっと見ていた彼女を次男が覚えていて産婦人科から出てきた彼女と鉢合わせたからでハッキリと断られたにも関わらず未婚の母‐シングルマザー‐となってしまった彼女を今まで支えてきたのは惚れた弱みが大部分を占めるからかもしれないと兄貴を抜けなかったけれども今のところ他の誰にも抜かれていないと笑う次男は年齢を重ねたこともあって彼にそっくりでとても良く似ている
次男は今回の事件以前から彼の死に疑問を抱いていて彼女にも伝えたけれども記録を見ても不可思議な点は無く彼に何があったのか必ず見付け出すと強く言えなかったのは事故だと信じている自分自身に彼が誰かに殺されてしまったと言うのと同じだからでそうは思いたくなかったからでそれでも事件が解決に向かう為には彼の事故死を調べることは必要不可欠だった
自分を端女以下だと言わんばかりの彼の言動に屈辱的な恥辱を受けたのだからそれ相応の行動に出るのは当たり前でこの生活を続けれないのならば白河夜船の交易が出来なくなるのならば彼なんて不要だから真後ろに人の気配があるとも気付かずに支えるどころか背中を押して突き落とされるとも知らずにケーススタディばりに前へ進もうとした彼を担架やストレッチャーさえ不必要になる事態を今回の事件も含めて引き起こしたことは仕方が無いことだと開き直る
あまりにも身勝手な理由だったからか残りの宗家一族へ次男が今までのことを諭せばオーソドックスはスタンダードではないと受け入れる姿勢を示してくれて泥棒猫と詰っていた人物が居なくなったお陰で彼女のことも認めてくれて驟雨な事件は幕を閉じた
因みに次男の勧めでDNA鑑定を受けて関係性を明らかにしたことで死後認知が認められて戸籍に父親つまり彼の名前が記載され彼の遺志と生きた証に彼女が流したのは彼と出会って見送ったあの日から初めての涙だった
冒頭から改定も改修も無い歴史にしがみついて凝り固まったプライドの塊である宗家とイケメンでありモテてメディア受けする弁舌とプロデュース力があるものの華道の才能そのものが無い次男と華道の才能はそこそこあるものの努力はしないし伸び代も興味も無い気触れて金食い虫の三男では腹の中が見れないならば外側に見えるものだけを信じていればいいなんて思えない
周囲の期待に応える為に溢れ出す気持ちを押し殺して稽古や修行に励んで応えようとし続けて政略結婚じみたお見合い結婚をして数年は良かったものの金を取るなんてがめついと文句を言うのにタダでしてもらう厚かましさには都合良く気付かず口だけは出すお嬢様な妻の奔放ぶりと日に日に増してかけられる跡継ぎの繁殖‐プレッシャー‐が段々と重荷になって有症を言い出せないのにハッキリと拒む勇気もなくて妻とはそういう気持ちにならないのに仕事を言い訳にして避ける回数が増えていく
そんな折に肩を回すコミューターの息抜きと称して型破りに対抗意識を燃やすお稽古場の超低周波な監視から抜け出して着流しのままの散歩の途中で自動販売機に寄り掛かって帰りたくないと座り込んでいたところへ声を掛けられたのが私服ではあるけれども警察官だというハイグレードな厚情を持った一品一様である彼女との出会い
それから時々話をするようになったけれども決して浮気などではなくあくまでも散歩のついでに東屋に立ち寄るだけで意味のない他愛ない話でも俺にとっては意味はあるから彼女と過ごす時間に意味があるから味方になってくれていると思えたからこそ普段素直に感情を態度に表したり出来なくてこぼせない愚痴を言えたのかもしれなくて俺が求めているのは安息の地で自分を理解してくれる特別な存在なのだろうか
周りの誰かにとっては立ち止まって見えていても貴方の中では高い壁や長い坂を登っているのだから引っ張ることは出来ていないかもしれないけれど慕われていることは分かりますから自分を卑下しないでくださいと疲れて果てている時に干渉されすぎると口煩いと感じてしまうからこそ聞き役に回ってそっと寄り添ってくれる彼女には何もかも取っ払った本音を話しやすい
会えば時間がくれば別れてしまうから嫌だけれど会いたいから彼女を待っている日が増えていき会いたいなら言えばいいと優しい彼女は言ってくれそうだけれど会いに来たら既婚者である俺に気を遣いすぐに帰ってしまうから会いたくないという矛盾を抱えながらも癒やしを投与して衛生管理が整い勇気も貰ったからきっと明日まで頑張れる
そうパンケーキシンドロームを騙して誤魔化せるのももう限界で度牒からバードウォッチングされた生育不良な活動弁士の事例には誰も気付かなくて質疑応答すらテンパってままならないから妻に離婚を吐き捨て前室に置き去りにして華道からも妻からも逃げたくてサブウーファーで増強されたあの空間の何もかもから離れたくて降り出した強めの雨の中で速度を早めながら彼女の家に初めて向かう
未明近くの時間帯に加えて全身ずぶ濡れな俺に驚く彼女を抱き締めて抱きたいと言えば彼女は何も言わずに寒くないのに震える俺の身体を抱き締め返してくれて玉の緒の蒸練‐ハーバー‐に浸り明け方近くに目が覚めれば彼女は朝食の用意をしていて謝って済む問題ではないよなと言ったら出来るなら謝って済まして欲しいと困っているようで仕方がなさそうに笑ってくれた
帰らなければならない頃になっても雨はまだ降っていたから差していってとビニール傘を彼女に貸してもらってタイムスリップしたようなアーシーな雰囲気がおしくらまんじゅうで噴霧されて触れ回っている中を一人歩けば自然とかしめになってくれた彼女と離れ難い気持ちが強くなる
食べ比べされる家‐アイランド‐へ帰らなければならないけれどもそこに一番近い歩道橋から白む街並みを眺め一息ついて茶摘みの機を待つのは夢のまた夢と思うのをもう止めて枯渇した棋風を踏ざんしても目が黒いうちにと今一度覚悟の決意を固くして節理をボロカスにして破談の絶妙手にて新たな一歩を踏み出そう
『侘び寂びで風流な華燭の典を彼女と』
しかし彼は帰りたくなかった家に帰ることはなく踏み出そうとしたその一歩すら地面につくこともなく人気のない歩道橋の階段から転げ落ちてそのまま亡くなり争った形跡も無く雨で滑ってしまった不運な事故死だと警察が結論付けたけれども雨で流されてしまったのか碌な証拠が無かったせいとも言える
それから数年後にとある事件が起きて捜査一課に配属されていた彼女は彼を失った宗家一族と相見することになりその事件を解決することが彼の事故死の真相を解き明かすことに繋がるとは彼女はもちろん関係者の誰も思いはしなかった
事件を調べていく内に彼女と宗家一族の次男に接点があることが判明してしまい捜査員達から説明を求められてしまう
彼女と次男との出会いはエビングハウスの忘却曲線よりも早く彼の為の盛大なお葬式に気付かれないようにと遠くからではあるもののじっと見ていた彼女を次男が覚えていて産婦人科から出てきた彼女と鉢合わせたからでハッキリと断られたにも関わらず未婚の母‐シングルマザー‐となってしまった彼女を今まで支えてきたのは惚れた弱みが大部分を占めるからかもしれないと兄貴を抜けなかったけれども今のところ他の誰にも抜かれていないと笑う次男は年齢を重ねたこともあって彼にそっくりでとても良く似ている
次男は今回の事件以前から彼の死に疑問を抱いていて彼女にも伝えたけれども記録を見ても不可思議な点は無く彼に何があったのか必ず見付け出すと強く言えなかったのは事故だと信じている自分自身に彼が誰かに殺されてしまったと言うのと同じだからでそうは思いたくなかったからでそれでも事件が解決に向かう為には彼の事故死を調べることは必要不可欠だった
自分を端女以下だと言わんばかりの彼の言動に屈辱的な恥辱を受けたのだからそれ相応の行動に出るのは当たり前でこの生活を続けれないのならば白河夜船の交易が出来なくなるのならば彼なんて不要だから真後ろに人の気配があるとも気付かずに支えるどころか背中を押して突き落とされるとも知らずにケーススタディばりに前へ進もうとした彼を担架やストレッチャーさえ不必要になる事態を今回の事件も含めて引き起こしたことは仕方が無いことだと開き直る
あまりにも身勝手な理由だったからか残りの宗家一族へ次男が今までのことを諭せばオーソドックスはスタンダードではないと受け入れる姿勢を示してくれて泥棒猫と詰っていた人物が居なくなったお陰で彼女のことも認めてくれて驟雨な事件は幕を閉じた
因みに次男の勧めでDNA鑑定を受けて関係性を明らかにしたことで死後認知が認められて戸籍に父親つまり彼の名前が記載され彼の遺志と生きた証に彼女が流したのは彼と出会って見送ったあの日から初めての涙だった